Go To Eatの効果に関する論文
3. 論文紹介2024年04月04日
一昨年度末にASAE東京大会で報告した学生との共著論文が、Food Policyに受理されました。
“A Trade-Off between Lives and the Economy? Subsidizing Dining Out under the COVID-19 Pandemic in Japan”
Yupeng Wang, and Satoru Shimokawa
Food Policy, 2024.
ASAE大会後にかなり手直しして7月初めに投稿したので、投稿から受理まで約9か月かかりました。3名の査読者からは厳しくも建設的なコメントが多く、1回目のR&R(major revision)では回答が30ページ近くになり、2回目のR&R(minor revision)を経てなんとか受理してもらえました。おかげさまで、大会で報告した論文とは別物といっていいほど質が上がったと思います。
この論文のキモは、新型コロナ流行下で「経済と公衆衛生のバランス」をとった経済支援政策が可能かつ重要であることを、日本のGo To Eat(GTE)に注目して実証した点です。世界的にみて新型コロナ対策というと、諸外国のロックダウンや英国のEat Out to Help Out(EOHO)のように、公衆衛生か経済かのどちらかに偏った政策が多く、日本のGTEのように2つのバランスを取った政策(様々な感染防止策で制限した経済支援)はかなり少数派です。また、バランスというと聞こえはいいですが、当時は中途半端といった批判もあり、実際にどのような影響があったかを評価することは今後の政策デザインを考えるうえでも重要です。
実証分析では、全国の人流データ(NTTドコモのモバイル空間統計)と飲食店情報(食べログ)を500メートルメッシュレベルで統合し、差分の差分法を用いて、GTEが「飲食店エリアの人流」と「2週間後の新型コロナ新規感染者数」に与えた影響を推計しました。推計結果より、GTEは、日本全国の飲食店エリアの人流を1月当たり約1400万人増加(+0.25%)させる効果があった一方、2週間後の新型コロナ新規感染者数を増加させる効果は1月あたり27件と小さかったことが示されました。
英国のEOHOと比べると、人流を増やす効果は10分の1ほどでしたが、新型コロナ感染拡大への影響が小さく、より長く人流増加の効果が続いたため、全体としての経済的便益はEOHOよりもGTEのほうが大きかったことが示唆されました。つまり、新型コロナ流行下では、経済と公衆衛生の間にトレードオフの関係があり、それらのバランスを取った政策のほうが全体として経済効果が大きくなることが示されたということです。