飲食店営業時短要請の効果に関する論文
Our paper about Japan's restaurant restrictions
3. 論文紹介|Papers
2024.06.17日
前回とは別の学生との共著論文が、Health Economicsに受理されました。
“Local Restrictions, Population Movement, and Spillovers during the Pandemic: Evidence from Japan’s Restaurant Restriction”
Xu, Zihan, and Shimokawa, Satoru
Health Economics
この論文も一昨年度末にASAE東京大会で報告したもので、大会後にかなり手直しして、さらに査読でもかなり修正しました。前回のFP論文よりも先に投稿して、R&Rも1回だけだったのですが、査読が返ってくるのが遅く、受理までに時間がかかってしまいました。
この論文のキモは、たばこ税やソーダ税などで問題視されている「一部地域での健康改善のための規制が隣接地域に与える負のスピルオーバー効果」は、新型コロナ禍という特殊な状況でも起こりうるのかについて、日本の飲食店営業時短要請に注目して検証した点です。より具体的には、「アルコール類提供は19時まで、営業は20時まで」という要請を、東京都と神奈川県のみが出した時期が1週間あり、都内で飲めなくなった人が近隣の埼玉県や千葉県に流出したという批判がありました。そこで、本当にそのような影響があったのかについて検証しました。
実証分析では、前述の4都県の人流データ(NTTドコモのモバイル空間統計)と飲食店情報(食べログ)を500メートルメッシュレベルで統合し、「飲食店エリア」と「飲食店なしエリア」、「要請あり地域」と「要請なし地域」、「要請前」と「要請後」を比較する三重差分法を用いて、時短要請が要請あり地域の飲食店エリアへの人流に与えた影響を推計しました。また、差分の差分法を用いて、隣接する要請なし地域の飲食店エリアへの人流に与えたスピルオーバー効果、および両地域の2週間後の新型コロナ感染状況に与えた影響も推計しました。
その結果、アルコール類の提供が終了する直前の18時台に、東京都と神奈川県の飲食店エリアでは、メッシュ毎の平均で人流を約102人(3.47%)減少させる効果がありました。一方、同時間帯の埼玉県と千葉県の飲食店エリアでは、人流を約38人(1.82%)増加させる効果がありました。このような効果は19時台から21時台にかけて徐々に小さくなりました。その結果、2週間後の新型コロナ新規感染者数は、要請のあった東京都と神奈川県で大きく改善された一方、要請のなかった埼玉県と千葉県の「東京都に隣接する市」で「東京都に隣接しない市」よりも悪化したことが示されました。つまり、要請あり地域での新型コロナ感染拡大を抑制する効果は大きかったものの、隣接する要請なし地域ではスピルオーバー効果によりその効果が弱められており、当時の批判は的を射ていたといえます。
これら結果より、新型コロナ禍という非常時ですら、規制だけで人の行動を抑制することは難しく、一部地域への制限は隣接地域への悪影響にもつながるため、地域間で統一した政策を実施することが重要だということがわかりました。